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LINEUP[配給作品]

ミレニアム・マンボ -4Kレストア版-(2024)

「あの夜はああだった。この夜はこうだった。いや、ああだったのはこの夜で、こうだったのはあの夜かもしれない……ともかく、この映画のスー・チーは、一切の説明や解釈を必要とせずにただそこに存在した。これほど素晴らしいことはない。」
———–三宅唱 (映画監督)

出演:スー・チー カオ・ジエ トゥアン・ジュンハオ
監督:ホウ・シャオシェン(侯孝賢)
A film by Hou Hsiao Hsien Starring Shu Qi • Jack Kao • Tuan Chun-hao 2001

製作国:台湾、フランス|105分|ビスタサイズ|5.1ch 提供:JAIHO |配給:SPOTTED PRODUCTIONS

巨匠ホウ・シャオシェンが新世紀を迎えたばかりの台北の夜 という当時の「いま」を捉えた異色の傑作! 「これ、十年前の話よ。しかも2001年」――冒頭、浮遊感たっぷりに都市を彷徨う主演のスー・チーの姿に、彼女自身のモノローグが重なる。これは未来から回想する形式で、ホウ・シャオシェン監督がどこかSF的な感覚で捉えたY2K時代の光景――新世紀を迎えたばかりの台北の夜という当時の「いま」を捉えた異色の傑作だ。 物語はスー・チー演じるビッキーが、高校時代からの腐れ縁の恋人ハオと、包容力のあるヤクザの兄貴ガオの間を揺れ動くというもの。ゆうばりファンタ映画祭でおなじみの北海道の夕張や、東京にも少し舞台を移すが、劇中の大半を占めるのは台北でのナイトクラビングのシーンである。オリヴィエ・アサイヤス監督によるドキュメンタリー『HHH:侯孝賢』(97年)では、仲間たちを引き連れて長渕剛の「乾杯」を熱唱していたホウ・シャオシェンだが、本作ではそのカラオケメンバーにも参加していたリン・チャンを中心にFish、#半野喜弘(出演も)によるアンビエントな電子音楽が鳴り続ける。前作に当たる『フラワーズ・オブ・シャンハイ』(98年)の実験を受け継ぎ、長回し(撮影はもちろん名手リー・ピンビン)とそれに同期した音楽/音響以外の諸要素をぎりぎりまで削ぎ落とした構造。映画全体がミニマル・ミュージック的に組成されているという言い方もできる。 俳優には状況設定だけを与え、台詞はほとんどがアドリブで撮影されたという有機的な生成が効いているのか、映画の感触は極めて官能的だ。メロウでスムースな時間の流れ、そして女性ひとりと男性ふたりによる関係性の揺らぎを含め、函館を舞台にした #三宅唱 監督の『きみの鳥はうたえる』(18年)が、どれだけ本作から影響を受けているかを改めて確認できるだろう。あの頃から独特のリズムを伝える『ミレニアム・マンボ』は今も終わらない。永遠に我々の心と身体を揺らし続けるのだ。
———森直人(映画評論家)