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例年以上に、ものすごい見応えがありました。まず今回から、長編と短編で部門別に分かれたのは大正解だと思います。長編は実力者の全力投球ばかりが揃った白熱のコンペになりましたし、短編は、この尺だからこそ評価に踏み切れる、という意味合いで、長編とは異なる批評軸を設定することができました。この形式、今後もぜひ続けて欲しいです!
たどたどしくも自分の言葉で。それは表現の、映画や音楽の、いや誰かになにかを伝える時の基本といっていいでしょう。もしあなたの言葉が他の誰かの言葉に似ていたら、それは途端にあたたかみを失い、耳を傾けようとする相手の心を閉ざしてしまうかもしれません。なにげなく用いた言葉が、よくよく考えると、どこかから借りてきたものだったというおそれもあります。本当に自分の“言葉”で語っているのか? 選考のポイントはそこにありました。
首藤監督は幸せな監督だ。なぜなら『なっちゃんはまだ新宿』は決して「傑作」ではない。どちらかと言えば、粗さが残る映画だ。でも首藤監督は「絶対傑作にしてやる。」って思いを強くもちながら撮影してたんだろうな。その熱い思いにのったのが、池田夏海と菅本裕子。二人は清々しく、『なっちゃんはまだ新宿』の役者としてのパーツとなって首藤監督に力を与える。そしてPOLTA。音楽としてのアシストはもちろん、でも多分首藤監督のこと好きなんだなぁーって観てて思ってしまった。映画は予想外の展開を迎える。その予想外な展開を観客はどう思うかわそれぞれだが、我々は22歳の首藤監督、面白いこと考えるなって思う。映画には熱量が必要。上手い演出や傑作を意識して作った作品より、観客は熱量に飢えている。ひょっとしたら『なっちゃんはまだ新宿』には熱量のカケラが観客に残せる可能性は充分ある。だからグランプリは決まり。
そもそも映画と音楽の融合って?ということから考えましたが、(それは作家のみなさんが考えていることでなんでしょうが)、あまり先入観を持たず、見終わった後に感じる直感を大切にしました。
去年初めて審査をさせていただいて、ある人からグランプリに推すなら単独上映で面倒みるくらいの気持ちで選べよなと言われたんですが、そういう意味では今年は『少女邂逅』でしょうね。これは単独上映したい。
久々に見応えのある作品が揃っていた長編部門の中でも、「少女邂逅」と「聖なるもの」が突出したインパクト。前者の緻密さと、後者の奔放に、完全にねじ伏せられました。で、短編も含めた今年の印象は、やたら「少女地獄」。制服を着た女子二人がいちゃいちゃしてんなーな印象。単に世代的に撮りやすい題材なのか、時代的にウケるモチーフとして選択されているのか。ビジュアル的に映えるという以上の何かがあるハズと、気になっています。シネコンに映画観に行ったら実写・アニメを問わず立て続けに学園ものの予告編が続いた際に抱く場違いおじさん感…に近いのか、この気持ち。あと、敷かれたレールの上を行くか外れるかという二択(の強迫観念?)と、ひいては若者の「上京問題」。今、若者が目指すのは東京、または海…しかないのか?みたいな。
今回のMOOSIC LAB 2017は良い意味で「MOOSIC」の枠組を外れる作品が多かったように思います。各作品単独での公開をしていても決しておかしくないクオリティの作品ばかりであり、今まで「MOOSIC」が培ってきたブランドが確固たるものになってきた印象を受けました。反面、「音楽」と「映画」の融合を掲げ、ショーケースとして作家たちが競い合ってきた「MOOSIC」らしさのようなものが感じられる作品は今回少なかったように感じられたことには、一抹の寂しさも感じております。
今回初めて導入された短編部門。ひと通り審査を終えての第一印象は「難しい!」。この一言に尽きます。MOOSIC LABという企画は、参加監督が自身の考える音楽(時に音)というものをどう咀嚼し、物語に落とし込んでいくかの過程が楽しく、その掛け合わせが絶妙にはまった瞬間が、LAB=実験室に立ち会う最大の醍醐味だと思っています。ただ今回の短編部門は、限られた時間の中で映画としての完成を目指すあまり、音楽がどうしてもBGMでしかなく、実験的要素が少ないという印象でした。
長編はとにかく『聖なるもの』と『なっちゃんはまだ新宿』がズバ抜けていた。そして、これがふつうの映画祭だったら『聖なるもの』を僅差でグランプリに推していたと思う。
長編部門に関しましてはどれも面白く拝見できました。映画と音楽が同じ重さで起立しているように感じられるものや、映画のパーツの一部分として捉えられているもの、異物として加えられているよう感じられるものなど沢山の試みに触れられたかと思います。
松本CINEMAセレクトにとって、2017年の「MOOSIC LAB」の最大の収穫は、小川紗良との出会いである。2013年の山戸結希(『おとぎ話みたい』)、 2015年の酒井麻衣(『いいにおいのする映画』)、2016年の松本花奈(『脱脱脱脱17』)と、20歳前後の若い女性監督の活躍はこれまでにも見られたが、小川紗良は監督として、先行する3人とは異質な、新たな才能の片鱗を『BEATOPIA』で見せてくれた。また、女優としても、同作と『聖なるもの』の2作で(実質的に)ヒロインを努めることで、期待すべき新進女優としての可能性を見せてくれた。どれだけ控え目に言おうとも、2017年の「MOOSIC LAB」は、小川紗良の名前とともに記憶されるだろう。
音楽に衝撃を受ける、という体験はとても分かるし実際にあることだろう。人が音楽と出会い何かが変わる姿を映像でどのように新鮮に見せてくれるか。これがムーラボのだいご味なのかなと、実は昨年「マグネチック」を見てからあらためて意識するようになった。今年はどんな映画がどんな音楽との交わりを提示してくれるのか、見る前から楽しみだった。
長編は『聖なるもの』と『なっちゃんはまだ新宿』が印象に残った。前者は映画に巻き込まれその中をぐんぐん泳がされていく感じだった。彼から始まった物語はいつしか映画に対するさまざまな気持ちの溢れる物語になっていき、見終わってこの上ない幸せな気持ちになった。後者はとにかく主演の方の魅力が飛び抜けていて、彼女の魅力で引っ張られていく感じだった。
私なりに4つの審査基準を設けました。1つ目。MOOSIC LABは、映像と音楽を50%ずつに圧縮して1本に詰め込むハイブリッドな映画の祭典と解釈しています。物語や映像がいかに優れていても、音楽の要素が欠けていては、もはや「ムーラボ」と呼べないでしょう。ここで言う音楽は映画に音楽を付けるというレベルではありません。映画と対等なまでに存在感と主張がある音楽を意味します。2つ目。果敢に実験と冒険に挑戦していること。そこに生まれる斬新性こそが、将来の日本映画に期待されているのだと思います。「新しい映像表現をすることは難しい」とよく聞きます。今回の作品群にも、観たことのある絵面が多く見受けられました。それがインスピレーションなのか、オマージュなのかはわかりませんが、少し退屈でした。ムーラボは「インディーズ界・最後の砦」です。オトナの事情には目をつぶり、若手作家が自由に表現したものを劇場に来てくれた方に見せてくれる貴重な場です。新しいモノを待っています。3つ目。映画を供給する側として忘れてはいけないことがあります。「お客様の大切な時間とお金を頂いている」意識です。私は北海道で上映会の企画や劇場映画の宣伝をしています。その立場から「人に薦める、自分の企画として上映する」ことが出来るか?を念頭に置いて選考させて頂きました。つまり、マスウケする面白いことは大切な要素です。4つ目。「映画は観た人の人生にとって、道しるべだよ」。これは北海道の地域上映や映画製作に、40年以上携わってきた札幌映画サークルのBOSSの言葉です。私自身も迷っているときや病んでいるとき、映画からヒントや元気を得ます。しっかり音楽が主張し挑戦的な「新しいモノ」であっても、奇を衒い過ぎてお客様を置いてきぼりにするのはNGです。前衛的なモノ、大衆的なモノ、私はどちらも好きですが、分からない、感動しない、なんの足しにもならないなら、その映画は存在価値を失っている、と考えます。
MOOSIC LAB 2017 / 審査員総評まとめ
今年も大盛況で幕を閉じた音楽×映画の祭典「MOOSIC LAB 2017」の審査員総評の一部抜粋をまとめましたので、こちらにアップ致します。今後の各作品の上映や来年以降参加してみたいという方のご参考になれば幸いです。(MOOSIC LAB主宰・直井)
■森直人(映画評論家)
例年以上に、ものすごい見応えがありました。まず今回から、長編と短編で部門別に分かれたのは大正解だと思います。長編は実力者の全力投球ばかりが揃った白熱のコンペになりましたし、短編は、この尺だからこそ評価に踏み切れる、という意味合いで、長編とは異なる批評軸を設定することができました。この形式、今後もぜひ続けて欲しいです!
さて、長編部門ですが、8作品すべて水準以上の出来だったのではないでしょうか。激しい混戦の中、グランプリに『なっちゃんはまだ新宿』を推したのは、これが真の意味で「力作」だと思えたからです。おそらく自分の実力より少し上にハードルを設定し、映画全体を軋ませながらも果敢に飛んでいることに感動しました。作劇に**という****を組み込み、アルターエゴの問題、「私の中のもうひとりの私」的な主題を扱っているのも、自主映画のフィールドではあまり見ないトライアル。あとPOLTAのふたりを劇の中で魅力的に登場させているのもとても良かったです。
それに比べると話題の岩切一空監督作『聖なるもの』は、良くも悪くも「天才」というか(笑)。もちろん素晴らしいんですが、かなり才気走ったタイプに見えますな。「大林宣彦→井口昇」の系譜を感じるので、商業的な枠組みで撮ったものを早く観てみたいです。なんにせよ、いま早稲田界隈が元気ですね。ある種新しい「シーン」として、キーパーソンたちが切磋琢磨しながら一緒に上昇していく勢いを感じます。
僕自身の好みで言えば、実はトップに推したかったのは『KILLER TUNE RADIO』です。映画自体の構造を音楽的に組織するアプローチは、なかなかユニークかつクール。ただ「群像劇」として見た時にやや胃もたれする反復が多く、これは短編(30~40分サイズ)の方法論ではないか?という思いが拭えませんでした。そのへん、もっと精査したものを観てみたいです。
個人賞に関して、説明が必要なのは男優賞かな。問題作(笑)『Groovy』の今泉力哉さんは短編部門『破れタイツのビリビリラップ』の役づくりも笑えましたが、こういう岸田森・天本英世的な「狂ったインテリ」役は、被写体としての彼の使い方としては正しいと思います。伊藤ヨタロウさんと曽我部恵一さんは貫禄がありすぎて思わず別枠に(笑)。代わりにかわいい男子たちに入ってもらいました。
続いて短編部門。グランプリに推した『ぱん。』は、僕の中では結構ダントツですね。15分の中に、ヘタしたら長編ぶんくらいのネタとエネルギーを惜し気もなく詰めこんでいる。もったいぶったところが全くない高密度の娯楽映画。一瞬もたるませずに面白さで全部埋めてやろう、というような気迫で、しっかり「フィクション」を演出している。それが「動画」でも「MV」でもなく、「映画」として観る者を納得させる力になっていると思います。
続く『デゾレ』は、驚きのフレンチロリータな世界。ひとつの美学で小さくても強固な箱庭を創出しており、ある意味ハードコア。不意打ちを喰らった感じで、かなりの満足感がありました。
第三枠の特別賞は結構迷いまして、エンタメ路線で言えば『破れタイツのビリビリラップ』、趣味的には『左京区ガールズブラボー』が浮上してくるんですが、どちらも「巧さ」が表現の限定性をもたらしているというか、「自分が飛べるハードル」の高さを熟知しすぎている気がしました。感銘の大きさでいうと、『処女について』の「ピュア/ノイジー」な刺々しさ、剥き出しの念やカルマに惹かれるかなあと。これもまた短編だからこそ耐え得る表現のかたちだと思います。
■門間雄介(ライター/編集者)
たどたどしくも自分の言葉で。それは表現の、映画や音楽の、いや誰かになにかを伝える時の基本といっていいでしょう。もしあなたの言葉が他の誰かの言葉に似ていたら、それは途端にあたたかみを失い、耳を傾けようとする相手の心を閉ざしてしまうかもしれません。なにげなく用いた言葉が、よくよく考えると、どこかから借りてきたものだったというおそれもあります。本当に自分の“言葉”で語っているのか? 選考のポイントはそこにありました。
『なっちゃんはまだ新宿』は、自分の心の奥深くまで降りていって、自分の足でそこに立ち、こんがらがった言葉をひとつひとつ丁寧に解きほぐしていくような真摯な作品でした。この映画が「忘れててごめんね」という一言に辿りついた瞬間、胸をかきむしられるような思いがしました。『BEATOPIA』は、感じたこと、考えていることが、素直な言葉で表現されている点に好感を抱きます。素直な表現が素直に心へ入り込んできました。『聖なるもの』は、既に自分の文体すら確立している作品ですが、最後はその言葉をパーソナルに用いすぎてしまったかもしれません。もっと開いてほしかった。とはいえ、十分に自分らしさを備えた映画です。以上、3作品が今回賞を得るのにふさわしい作品だと考えました。
■坪井篤史(シネマスコーレ/副支配人)
首藤監督は幸せな監督だ。なぜなら『なっちゃんはまだ新宿』は決して「傑作」ではない。どちらかと言えば、粗さが残る映画だ。でも首藤監督は「絶対傑作にしてやる。」って思いを強くもちながら撮影してたんだろうな。その熱い思いにのったのが、池田夏海と菅本裕子。二人は清々しく、『なっちゃんはまだ新宿』の役者としてのパーツとなって首藤監督に力を与える。そしてPOLTA。音楽としてのアシストはもちろん、でも多分首藤監督のこと好きなんだなぁーって観てて思ってしまった。映画は予想外の展開を迎える。その予想外な展開を観客はどう思うかわそれぞれだが、我々は22歳の首藤監督、面白いこと考えるなって思う。映画には熱量が必要。上手い演出や傑作を意識して作った作品より、観客は熱量に飢えている。ひょっとしたら『なっちゃんはまだ新宿』には熱量のカケラが観客に残せる可能性は充分ある。だからグランプリは決まり。
『ぱん。』は短編という時間をかなり理解して作られた傑作。正直短編映画は作り手が映画を作るんだって思いがしっかりしていないと<MOOSIC LAB>ではミュージックビデオになってしまう可能性は大。それでも審査する方は大丈夫なのかもしれないけど、僕らは映画が観たい。しかも<MOOSIC LAB>という企画内での映画が観たいのだ。そんな意味では『ぱん。』『破れタイツのビリビリラップ』『デゾレ』『GREAT ROMANCE Ⅱ』の4強になる。その中でも辻凪子と阪本裕吾の『ぱん。』は強烈な1本。ある意味、井口昇監督の短編作品に近い何かを残す作品。起承転結をハイスピードと個性的なキャラクターたちの棒読みのようなセリフで魅せる。心地よい映画でした。なんといっても辻監督自らが演じる小麦が素敵。新しいメガネっ子ミューズの誕生だ。
■黒澤佳朗(沖縄G-Shelter主宰)
質・量ともに例年を圧倒する内容でした!!!かねてよりムーラボにエントリーしていた光る短編映画が、あまり評価されてこなかったと感じていたので、短編部門の賞が設けられ、多くのエントリーがあったことを嬉しく思っています。自主映画では制作環境的に、長編より短編の方が良い作品作れるんじゃないか?と門外漢ながら感じていたのですが、今年はフタ開けてみるとクオリティーの高い長編作品が目白押しで、良い意味で裏切られました!!!賞に関しては、毎年客観的な視点でムーラボの賞にふさわしいか悩んで決めていたのですが作品のレベルは拮抗していて、甲乙つけがたく。逆に安心して好みで票入れさせていただきました。ムーラボがまた新たな次元の映画祭に突入したんだと実感しました。関わった皆さま、本当お疲れ様でした!!!!!!ムーラボ沖縄で、この素晴らしい作品たちを沖縄の人たちに責任持ってお届けします。
■大下直人(Kisssh-Kissssssh映画祭)
皆さん書きそうですが、今年は作品数が多く、長編・短編と部門が分かれ、単純に尺が長い作品が増えたので審査するのに非常にスタミナを使った気がします。特に長編部門は、今まであった「これぞMOOSIC」っていういい意味で軽いノリ作品は少なくなり、「これ明らかに単独公開を視野に入れているじゃないですか!」という力作が多かった。あの60分っていう尺がMOOSICの一つでもあったような気がしますが、一方、尺のため作品の幅が狭まり、若干マンネリ化していた部分もあったと思います。その点を考えると、長編というレギュレーションが設けられたことによって、「少女邂逅」のようにMV風映画を撮るのではなく、アーティストの世界観を下敷きに映画を作るという手法が良い方向に作用したのではないでしょうか。一方で、長編でも「聖なるもの」や「Groovy」など実験精神に富んだ怪作も生まれたので、結果的にMOOSICの作品の幅が広がったような気がします。ただ、短編に関しては15分という尺を生かした作品というよりは、ほぼMVだったり、「この尺ではこのぐらいの内容でしょ」という保守的なものも見受けられたような気がします。いずれにせよ、今回の長編・短編部門の新設によって、力作が次々と生まれ、多様性も広がったのではないでしょうか!
■石井雅之(アップリンク)
そもそも映画と音楽の融合って?ということから考えましたが、(それは作家のみなさんが考えていることでなんでしょうが)、あまり先入観を持たず、見終わった後に感じる直感を大切にしました。
結果としては長編の『聖なるもの』に大きく心を揺さぶられました。あらゆる境界線を溶融して進んでいく物語に、音楽をハメていくことでエモさが爆発してました。印象的なのは********した岩切一空が***************するシーン。伏線としてノイズを鳴らして、テンションを張り詰めさせておいてからのボンジュール鈴木のドリーミーな楽曲でエモーショナルを爆発させる。このシーンには映画的興奮と音楽的快楽を同時に食らい心底痺れました。
短編では『ぱん。』が強く印象に残りました。痛快で壮大でサイコーにキュート。怒涛の展開をものすごいテンションで突っ走って、上映分数わずか15分。作品自体がファストパンクの一枚のアルバムように感じました。で、結果ぼくはこの2本をグランプリとして選びました。
■小田裕二(宇都宮ヒカリ座)
去年初めて審査をさせていただいて、ある人からグランプリに推すなら単独上映で面倒みるくらいの気持ちで選べよなと言われたんですが、そういう意味では今年は『少女邂逅』でしょうね。これは単独上映したい。
しかし、これはムーラボですから、単独上映する映画を選んでも面白くないですよね。今年ハッとしたのは『聖なるもの』ですかね。一空さんとボンジュール鈴木さんなんて大丈夫かなというのが第一印象でした。ところが主人公の視点というか願望というかにどんどんのめり込んで行ってしまうところをボンジュール鈴木さんの楽曲がかかることで客観的になれるというのか視界がすごく広がるような感覚がして、これは映画と音楽の融合だなとグランプリに推す決意をいたしました。
それから『BEATOPIA』ですかね。これもよくある地方ものという感じなんですが、終始視点が温かいのとラップが自然に入ってくる感覚が心地よくいいなと思わされました。
あとは『Groovy』なんですが、会話というかコミュニケーションとしてのセックスみたいなところに視点が行っていて面白そうと思ったんですが、嫉妬で愛を高めようと他人にレイプをさせるくだりなどの描写が必要なのかなと思いました。その点『少女邂逅』は暴力自体を描かず観客の想像に委ねていたので素晴らしいと思いました。
今年は短編部門ができまして、ムーラボらしいワクワク感みたいなものが復活するのかと思っていたのですが、綺麗にまとまった作品が多く少し残念でした。しかし『ぱん。』は世界観ができあがっていて素晴らしかったですし、やはり『GREAT ROMANCE2』も良かったです。『デゾレ』の歌詞の日本語字幕が出るエンディングでそういう意味だったんだと思い返せる感じは新鮮だったのでグランプリに推します。それから『左京区ガールズブラボー』のHomecomingsは何年か前に偶然ラジオを聴いていたら流れていまして、本作を観ていてとても気になってしまったというか、そういうのも何か音楽っぽいよねと思って選ばさせてもらいました。
地方映画館の人間として今年のムーラボを観るに長編作品で単独上映する作品が多そうな感じがして、ムーラボとして上映を企画する意味はあるのだろうかという感じがします。
かといって、単独上映するようなクラスの映画を抜きにして上映を企画するのも無理があるでしょうし。となると地方で上映することが難しい作品が結構出てしまい、東京でしか観れないものを宇都宮でもと思っている私からはちょっとなあ…とも思っています。いずれにせよ、一空さんの映画でヒロインに使ってもらえるように可愛さを磨かなくてはと思いました…。
■萬谷浩幸(加賀温泉郷フェス主宰)
石川県加賀市で毎年開催されている音楽フェス、加賀温泉郷フェスとMOOSIC LABさんとコラボさせていただいて3年になります。今年初めて審査員という立場で参加させていただきました。温泉と音楽との融合を目指した加賀フェスと映画と音楽のコラボを目指したMOOSIC LABさんとはずっと親和性を感じていて、2017年のすべてのラインナップを観させていただいて本当にうれしく思います。まず長編では保紫萌香さんが出演する「少女邂逅」。映像の美しさと世界観に引き込まれました。「聖なるもの」では南美櫻さんの浮世離れした存在感と監督でもある岩切一空さんの独特の空気感が素晴らしいです。短編では「左京区ガールズブラボー」のキャッチーさと「ぱん。」のシュールさ、音楽の切り口ではHomecomingsさんとボンジュール鈴木さん、白波多カミンさんが印象に残りました。他にも語りつくせない魅力的な作品がたくさんありました。映画と音楽というフォーマットへのアプローチはこれからも変容していく気がしますが、一歩足を踏み入れると普遍的な変わらない魅力がそこにはあります。加賀フェス主催としてこれからも映画と音楽に関わらせていただきたいなという思いをあらためて強く感じました。
■溝口徹(横川シネマ)
久々に見応えのある作品が揃っていた長編部門の中でも、「少女邂逅」と「聖なるもの」が突出したインパクト。前者の緻密さと、後者の奔放に、完全にねじ伏せられました。で、短編も含めた今年の印象は、やたら「少女地獄」。制服を着た女子二人がいちゃいちゃしてんなーな印象。単に世代的に撮りやすい題材なのか、時代的にウケるモチーフとして選択されているのか。ビジュアル的に映えるという以上の何かがあるハズと、気になっています。シネコンに映画観に行ったら実写・アニメを問わず立て続けに学園ものの予告編が続いた際に抱く場違いおじさん感…に近いのか、この気持ち。あと、敷かれたレールの上を行くか外れるかという二択(の強迫観念?)と、ひいては若者の「上京問題」。今、若者が目指すのは東京、または海…しかないのか?みたいな。
思えば、「少女邂逅」は(僕にとってはやや興味の沸かない)それらのモチーフ全部乗せ。敬遠したくなる映画のハズ、だったのですが…。ミユリと紬の蜜月と別れが、とにかく後戻りが効かないよう残酷に構成されていて、ちょっと凄みすら感じました。ミユリの選択や紬の運命を踏まえて思い返せば、他愛ないと思えたシーンの言葉が全く違う重みで思い出されたり、すれ違いの予感が何気ないシーンで示されていたりと、気づきの多い映画で、膨らみはあるけど無駄がない、緻密で意志的な構成力に舌を巻き、ゾクゾクしています。今年の傾向の全部乗せ(しかし一枚上手)であるなら、本作がグランプリに押し上げられるのが順当なのかな…そんなイメージが湧いて、ギリギリ迷って「聖なるもの」を次席に。あと、音楽が与えた余韻や繊細な透明感は、実験的とは言えずとも、水本夏絵さんが「転校生」だと気づいた瞬間に最後のピースがハマった快感もあって、マイナス要素とする気にはなれませんです。
で、「少女邂逅」のミユリが向かった先=東京が舞台の「聖なるもの」。「花に嵐」の変奏的なモキュメンタリーかと思ったら、伏線くさい要素はさっさと置き去りに、どこまでも暴走・膨張していく加速感と、連鎖していくひとつひとつのシーンが魅力的で小見出し付けたくなっちゃう感じ。テクニック、ドライブ感、絶妙なアングルとキレキレの編集、美女図鑑。どこに連れて行かれるか分からないけど、どこに連れて行かれようと文句なし…なんなら結局どこに連れてこられたのか分からなかったし(宇宙?)。そして何より、一気に映画をさらっていった本作の小川紗良さんの献身!前作よりポップに感じられるのは、音楽に引っ張られているからかなと、ベストミュージシャン賞はボンジュール鈴木さんに。とにかく面白かった!
「少女邂逅(東京前)」と「聖なるもの(東京後)」の二部構成(そういえば今年、二部構成というか折り返し点のある作品が多かった?)というのは乱暴だとしても。好演も披露するPOLTAの楽曲とシンクロしながらエモーショナルに物語が進行していく「なっちゃんはまだ新宿」は、いわゆるMOOSIC的な方程式の模範解答と言えるのかな、と。それはともかく、自分の恋敵であるはずのなっちゃん(という妄想)を映し鏡に、秋乃の10代と20代(の人生の転換期)の日常の裏に潜む不安や真情が視覚化されて伝わってくるというのは、実はスゴいことじゃないか、と。彼女のちぐはぐな行動に説得力を持たせ(特に東京編のなっちゃんの虚実曖昧な浮遊感が、秋乃の心象にも重なって見えて良かった)、かつ映像として面白い。力作だと思います。
■松岡宏起(下北沢映画祭運営委員会)
今回のMOOSIC LAB 2017は良い意味で「MOOSIC」の枠組を外れる作品が多かったように思います。各作品単独での公開をしていても決しておかしくないクオリティの作品ばかりであり、今まで「MOOSIC」が培ってきたブランドが確固たるものになってきた印象を受けました。反面、「音楽」と「映画」の融合を掲げ、ショーケースとして作家たちが競い合ってきた「MOOSIC」らしさのようなものが感じられる作品は今回少なかったように感じられたことには、一抹の寂しさも感じております。
そんな中、作品独自の「MOOSIC」らしさを遺憾なく発揮していた2作品が、今回審査をする中でグランプリの候補にあがりました。岩切一空監督『聖なるもの』と吉川鮎太監督『Groovy』です。『聖なるもの』は『花に嵐』をさらにアップデートし、フェイクドキュメンタリー・POVのステージを新たに更新した、全てがパーフェクトに近い傑作。かたや『Groovy』は奇しくも『聖なるもの』と同じくフェイクドキュメンタリーの手法を取り、「音楽が自殺を止める」という無謀とも言えるようなテーマをブチあげ、幻聴から音楽を紡ぎ上げるという独自のアプローチで音楽と向き合った異形の怪作。審査は両者譲らず、と言った様相を呈しましたが、ここでしか生まれ得ない「音楽」を生み出し、最も映画において音楽を「これでもか!」と言わんばかりに昇華させた『Groovy』を下北沢映画祭が選ぶグランプリとさせていただきました。特に秀作が多かった今年の「MOOSIC LAB」において、本作が持つ「異物感」がさらに凄みを引き出していたのかもしれません。審査員特別賞とさせていただいた『なっちゃんはまだ新宿』は首藤監督と池田夏海さんの世界が、POLTAと菅本裕子さんを通して「MOOSIC LAB」と交差する。この座組でしか見れないチャーミングで切実でどこか儚い、そんな愛すべき作品だと感じ審査員特別賞とさせていただいた次第です。来年も「ここでしか見られない映画」と出会えることを楽しみにしております。
■平井万里子(下北沢映画祭運営委員会)
今回初めて導入された短編部門。ひと通り審査を終えての第一印象は「難しい!」。この一言に尽きます。MOOSIC LABという企画は、参加監督が自身の考える音楽(時に音)というものをどう咀嚼し、物語に落とし込んでいくかの過程が楽しく、その掛け合わせが絶妙にはまった瞬間が、LAB=実験室に立ち会う最大の醍醐味だと思っています。ただ今回の短編部門は、限られた時間の中で映画としての完成を目指すあまり、音楽がどうしてもBGMでしかなく、実験的要素が少ないという印象でした。
直井さんがMOOSIC LABを立ち上げた理由。そこには、異なるカルチャーである音楽と掛け合わせることによって「監督も観客も映画をもっと自由に楽しんで欲しい」という思いが働いていたはずで。というわけで下北沢映画祭として選んだのは、ひたすら「自由」な作品でした。「ぱん。」の、到底自主映画とは思えない手に汗握るカーアクション。「ビリビリラップ」で「♪うちら映画よう知らんし」とあっけらかんと歌ってしまう破れタイツのキュートさ。そして「処女について」の現代美術のような風合い。この3作品は、監督のやりたいことを貫き通した究極の自主映画だと感じました。誤解を恐れずに言えば、来年度の短編部門は映画として完成していなくて良いとさえ思います。アイデア1本勝負。「映画とはなんぞや?」という凝り固まった価値観から解き放たれた自由な映画が観てみたい。短編には短編しか出せない面白さがある。来年も楽しみにしています。