MOOSIC LAB 2016 女優賞(菅原佳子)/スペシャル・メンション(山田佳奈)
『夜、逃げる』
出演:菅原佳子、瀧内公美、松澤匠、山田ジェームス武、後藤ユウミ、林浩太郎、日高ボブ美 ほか
監督・脚本:山田佳奈|音楽:yonge|企画:直井卓俊
誰かの何かになってみたいふたりの、過去も現状もぶっ飛ばす「究極の嫌がらせ」とは?劇団ロ字ック主宰・山田佳奈監督が関西ガールズバンドの雄・”yonige”とタッグを組み、曲者俳優陣が集結しておくる「どうにかなっちゃいたい」わたしと、あの子の、お話。
◉山田佳奈
神奈川県出身。レコード会社で勤務したのち、2010年3月に□字ックを旗揚げ。第8回公演の『荒川、神キラーチューンは、CoRich舞台芸術まつり!2014春グランプリ、サンモールスタジオ最優秀団体賞を受賞。いま注目の若手劇作家・演出家である。
◉yonige
大阪寝屋川を拠点に活動しているガールズロックバンド。卓越されたメロディーセンスと胸を突き刺さるリリックが話題。ボーカルの牛丸ありさは、オーストラリアとハーフの日本人。全5曲が収録されたミニアルバム「かたつむりになりたい」を7月にリリース。
■審査講評
とても輝いているようには見えない登場人物たちなんですが、全体を通してみると放たれているキラキラに目眩がしました。ーーー小田佑二(宇都宮ヒカリ座)
『マグネチック』の個性と中毒性、『夜、逃げる』の実力者たちの競演や作劇のクレヴァーさにも強く惹かれましたが、このCプロ2本は支持者が比較的多いと予想されるので、僕は個人賞のほうでなんとかフォローさせてもらいました。ーーー森直人(映画評論家)
女子のしっかりした観察・考察に基づいた女子のための元気のでるドラマとしての魅力はあるものの、「映画と音楽のコラボレーション」は見られないため、「MOOSIC LAB」の枠外で評価されるべき作品だろう。その意味ではもったいない作品である。ーーー松本CINEMAセレクト
moosicにも脚本賞があればいいのに!と思わせる一番の作品でした。山田監督はレコード会社から劇団主宰者という経歴だけあって、シナリオと芝居と音楽の構築度はとても高いですね。次作を期待したいです。ーーー遠田孝一(プロデューサー)
菅原さんサイコーでした。ーーー木下茂樹(テレビ西日本)
演者さんの熱量たっぷりの演技とリズミカルに飛び交う台詞、そして音楽によってひとつのひとつのシーンが洗練されていて、心踊りました。装ってばかり(装っていないようなふりばかり)の自分でも、何かのために、誰かのために、どうにかなっちゃうかもしれない。分かってる、分かってる、ん、だけど!の向こう側の光を見せてくれてありがとう。ラストまでじっくり観ないと『Yonige』の存在が分からないのは、ご愛嬌?ーーー川島(下北沢映画祭)
舞台の人なのにショットショットの選択がとても良く、カメラもうまいなあと思いました。全体的に台詞を行っているような、また幾分説明的な言い回しだと感じて観ていたのですがが、役者の方々の表情に緩和されだんだん気にならなくなりました。海辺のシーンはとても良いショットで気持ちがよかったです。音楽も映画に合っていました。主人公が「女優だから」と語った時の歯の矯正ブリッジが何となく彼女の自信と表情を増幅させていて、効いていましたが、もしや今正に矯正中だったのでしょうか。気になる。ーーー菅原睦子(仙台短篇映画祭)
「演劇に励むアラサーどん詰まり女子が奮闘する話って、うう…去年も同じような作品があったような…既視感が…」と思っていましたが、全くの杞憂でした。どうにもならない、どうかしている「私たち」の断末魔のような叫びが絶え間なく続き、いたたまれなさだけで豊洲の地下空間埋められるレベル。こういうとにかく叫ぶとかヒステリックな演技って駄目な日本映画っぽいですが、このシャウトは山田監督もしくは演者本人の中に内在しているものかと勝手に妄想し、愛おしささえ覚えます。あと、音楽の距離感が適度にドライで好きです。「音楽で人生変わりましたーーーー」って大仰な感じにせず、あくまでお話のトリガーにしている辺りとか。現代人にとって音楽は日常に根ざしていて、どうしょうもなれない時、そっと寄りそってくれるもんじゃないかっていうことを再認識した次第です。ーーー大下直人(Kisssh-Kissssssh映画祭)
ブス」「自分の価値の上げ下げ」「私以外の女に負けたくない」「私、29だし」「女子として終わってる」「女って思ってもみない嘘をつく、面倒臭いね」。その女子たちの像を前に、男性キャラクターが「女子に生まれなくて良かった」と言います。方向は違えど、根っこの部分は、MOOSIC LABの代表的な1本『おんなのこきらい』が先取りしていますし、意識をしていないとは思いますが、それでも鑑賞者としてそのリンク先がはっきり分かってしまうので、どうなのでしょうか。あえてそのあたりのワードは避けて欲しかった気がします。ただ、演劇内や漫画喫茶など、狭い空間・人物関係で面倒がごちゃついていて、そういう世界のあり方にヒロインが苛立つ様は、いろんな鑑賞者が共感できるのではないでしょうか。個人的な感想ですが、あのキャバ嬢は何がどうなってもやっぱり好きになれません(笑)ーーー田辺ユウキ(ライター)
小劇団の舞台裏の女性のいざこざを描いた作品。主人公のカナはブスでもてない29歳。もうひとりの主人公はワケあり劇団員で彼氏にフラレたことで彼氏をナイフで刺す。江ノ島がラストシーン、長回しが多く、舞台裏の狭い人間関係はよくある話で新味がないのが残念。ーーー坪井篤史(シネマスコーレ)
キャストの芝居を見ている時間は面白かったりするのだが、それが映画としての面白さに必ずしもなるとは限らない。この作品だけでなく、こういうことは往々にしてある。クドカンの映画だってそうだ。これはどう言ったらいいのか、ちょっと言葉に迷ってしまうのだが…。コントと芝居の違い、とも違う。ハッキリしているのは、この作品のなかでは何も起こっていないということだ。悶々とした人たちがあっちでもこっちでも蠢いているだけである。いや、海とか行かずにもっと限定された空間でひたすら悶々としていた方がよかったのかもしれない。身につまされる話としてはよく分かりますよ。萌乃の獣のような身体性には戦慄しました。ただ、やはり加奈子のどん詰まりを台詞だけでなく、見せてほしかった。それを描くことが、映画だと思う。ーーー田中誠一(立誠シネマ)
キャラ描写も細かいし、皆さん演技上手だったんですが、見ていられなくて‥。ーーー黒澤佳朗(沖縄G-Shelter)
音楽をことさら強調するわけでも、新たな使い方を呈示するわけでもないのに、曲のために作られたドラマなんだということがストレートに伝わってくるところが良かった。過剰なまでの瀧内公美も上手過ぎる菅原佳子も、そのバランスでyonigeを表現しているんだなあ。音楽にとって今回もっとも幸せな作品なのでは。そしてもっとも隅々のキャラまでが活き活きしていて魅力的だった。ーーー林未来(元町映画館)
魅力的でしたー。青春映画の定番や定石を骨子に、劇団の下世話で世知辛い舞台裏で肉付けしながら、行き届いた演出で堂々の正面突破。キャラクターもシチュエーションもセリフも思いつきや使い捨てがなく、細部まで意図がある作品は、気持ちよいです。ヒロインがイヤホンして雑踏を抜けて行く導入、すれ違う人達の手際よいスケッチが、物語の世界観を即座に信頼させてくれました(外側がちゃんとある、というか)。あと余談。編集が三谷幸喜、松尾スズキ、田口トモロヲらの映画を手がけてる上野聡一さん(そこそこ大御所)で驚いたのですが、演劇人の監督作品は上野さん…ってルールがあるの?ーーー溝口徹(横川シネマ)
今回のムーラボで1番映画としての完成度の高い作品だなと思ったし、ロ字ックの舞台を観てみたくなった。わたしは演劇畑にいたことないけど、きっと演劇あるあるが詰め込まれているのだろうな。東京という大きな街で文化に消費されながら疲弊していく加奈子と、恋愛に全力のエネルギーを費やし自己愛と自意識にがんじがらめになっていく萌乃が、再び出会い、再生してく姿が愛おしかった。ーーー山崎花奈美(MOOSIC札幌編主宰)
役者辞めるか?続けるか?アラサー女子。心の葛藤の中で、見事に人生を突っ走っていました。その気持わかるわ~と、感情移入するし面白い。しかし、映画と演劇と音楽の三つ巴という何度かMOOSICでもあった新鮮な試みも、爆発はなかった。MOOSIC的にいえば、海辺でyonigeが歌ってるくらいの遊びがほしかった。それは飛び道具かもしれないけれど別次元に飛んでいってほしかった。ーーー家田祐明(K’s cinema)
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MOOSIC LAB 2016 グランプリ/ミュージシャン賞(SACOYAN)/男優賞(大木宏祐)
『マグネチック』
出演:大木宏祐、高橋あゆみ、和田碧、SACOYAN ほか
監督・脚本・編集:北原和明|音楽:SACOYAN|撮影:守屋良彦
したまちコメディ映画祭2015に出品された『ドラマ』が一部でカルト的な衝撃を与えた北原和明監督が、ここ数年の活動停止により伝説化していた福岡在住の天才シンガーソングライター”SACOYAN”とのタッグで贈る虚実ないまぜの物語。
◉北原和明
『ドラマ』がしたまちコメディ映画祭2015に入選。東京都杉並区在住。
◉SACOYAN
視力弱い。足立区育ち。ラジカセに歌を吹き込みながら13歳からギターの日々。18歳MTRを購入→曲投稿。19歳持病が悪化。実家住みで腫れ物のような時間の中SACOYANを開始。11年、福岡に移住。長年の音楽人生を一時停止。16年、録音ボタンを押す。
■審査講評
頭の中をカセットテープが回りだす。SACOYANドキュメントではアナログVUメーターが振れ、ドラマの中ではデジタルレベルメーターが振れるような不思議な作品だった。どこか変な役者たち。感情を持つその顔たちは、前へ前へ押し出されることもなく、物体として佇むようにいる。アナログなカセットテープが回転しながら、規則正しいメーターが振れていく。SN比が悪いカセットテープの音楽が心地よく感じられるようにこの映画には不思議な磁力により、ぬくもりとなって変化する新たなMOOSICを体験した。観客賞は取れないだろうけど、審査員の心は揺さぶられたに違いない。ーーー家田祐明(K’s cinema)
脱力感を装いながらも、ハードコアにあまのじゃくな男のドラマは好きです。もう少しタイトだったらなー。ーーー溝口徹(横川シネマ)3>
SACOYANの歌声の素晴らしさ!役者に棒読みさせて(わざとなんだろうか?)歌にエモーションを担当させている感じが実験的でかつ成功していた。延々と責め立てる言葉が音楽になっているジャングルジムのシーンは思わず拍手。ドキュメンタリーパートはほとんど印象に残ってないが、歌と同様そこがエモーションを担当していたような、そこに載せられた感情だけは強く記憶に残っている。ーーー林未来(元町映画館)
構成、すごくおもしろいですよね。SACOYANの独り語りパートも引き込ますし。ストーリーパートの演技と編集は正直観ているのしんどかったですが、星野くんが不思議と憎めないのと、告白シーンはすっごい最高でした!!!ーーー黒澤佳朗(沖縄G-Shelter)
よかったです。まさかこのご時世にあだち充が自主映画を撮るとは…という錯覚に陥りそうになったが、軽快なラブコメ作としてかなり成功していると思う。とりあえずのテーマは「距離」。東京タワーと電車との。彼と彼女の。日本とアメリカとの。そして思いがけず音楽がもたらした出会いからの、接近。カッティングにときおり香港の血がにおった。これだけ飄々と重みを感じさせずに、かつドラマ(トレンディにあらず)を語りきるのは絶妙なセンスだと思う。センスと言えば、遊園地(?)でのワンシーン。MLBの映像が映る大画面モニターを背にしての会話など、一見さらりとしているが、なかなか出来るものではないと思う。音楽との距離感も絶妙。キャストもすべて素敵でした。ただ、「巧い」だけに終始してしまったという気もする。ネオテニー(幼体成熟)なままで世界が完成され、たとえばそこに、異常や破綻や狂気はあっただろうか。つまり、自身の描く世界を整形するよりもなお強い作家の野心というようなものがどこかに潜んでいただろうかという疑問は残る。例えば、映画的な手つきのセンスでは『君の名は。』より上だと思うが、『君の名は。』を観た時に「いや、『ダンスナンバー 時をかける少女』は超えてないだろ」と思ったような、ロロ・三浦直之が放った圧倒感というようなものがなかったのが心残り。しかし今後絶対伸びると思うので、期待しています。ーーー田中誠一(立誠シネマ)
女性監督が描くような繊細でナイーブな作品。モテないと思っている男と彼のことが好きな女性との2年間が描かれる。父と母のドキュメンタリーが挿入され不思議な感覚に襲われる。編集が荒く、黒味の転換は良くない。ーーー坪井篤史(シネマスコーレ
グランプリに推すか、どうするか迷いました。意図がちゃんと分かる映画でした。ツッコミどころはたくさんあります。「この人たちって結局はちょっと狂ってるよね、ヘンな人たちだよね。そうだったら観ていて楽しいんだけどな」と思ったのですが、何となくエモいモードに持っていったりして、さらに男性キャラクターがいまいち立ち切らないまま、シンプルな青春ものに収まっていくところが、逆に収まりが悪くなっていてムズかゆいです。ヒロインが、相手役の男の子について「中学からあなたのことを知っている。いろんな良いところを知っている」から、ダメ男でも見限れないのだけど、それが具体的に何なのかとか。いろんな背景や詰めがちゃんとあれば。リサイクルショップで買った服から出てきた、カセットテープ。その中に収録されている音楽。それを「すごく良かったよ、聴いてみて」というヒロイン。それを受け取っていく男。なぜそういう行動が成り立つのかとか、理由付けは欲しいところではありますが、音楽が人の手に渡っていく流れを「何とかやろう」としている意志がありました。SACOYANさんの楽曲の圧倒感はもちろんのことですが、あのドキュメンタリーパートは、MOOSIC LAB 2016の中でもっとも引力がありました。もっともっと観たい、記録でした。ドキュメンタリーパートは撮影も意識せずしてすごく良くて、だからこそフィクションパートは強引にでももっと人に迫って欲しかったです。ーーー田辺ユウキ(CO2宣伝プロデューサー)
開始5分で他人に観られないようこっそりサムズアップ。こういう映画観たくてMOOSICLAB観てるんだよ。まず、演者たちがヤバいよね。演技が上手いっていうよりは、フィクションなのに本人が持っているキャラクター性がむき出しになっているのがヤバいよね。売れない芸人より、「月曜から夜ふかし」に出ている素人の方が100倍面白いのと同じ感じ。
小慣れた演技よりも、圧倒的に不格好な人間性の方が記憶にこびりつくよ。そんな演者に内在するキャラ性のせいで 、物語としては真面目なのに何故か笑いがこみ上げてくる自分がいる。川沿いでの喧嘩シーンとかゲラゲラ笑ってしまった。一方で、 SACOYANのドキュメンタリーパートは大切な誰かの喪失感で満ちていて胸をギュルギュルと締め付ける。家族、父への切実な思いに落涙しそうになるのに、狂人たちのフィクションパートに切り替わるせいで涙吹き飛んでしまうじゃねーか!!あまりに対照的な2つのパートだからねじれの位置でそのまま交わらずに終わるかなと思ったら、最後に連結して吃驚仰天。ここで出会うのはあくまでフィクション次元の中の話だけど、そこで発せられる SACOYANの言葉はホンモノ。そんなホンモノの言葉に背中を押され、ダサさしかないアイツが一歩踏み出す姿を見て心が震えないわけがない。生々しくて、気持ち悪い。だけど、感じてしまうカタルシス。嗚呼、アイツらと別れるのが名残惜しい、また、どこかでアイツらに出会いてえよ!ーーー大下直人(Kisssh-Kissssssh映画祭)
言い回しや佇まいが、かなりきわどい所を攻めて来ているなあと思った。モノローグはあまり好きではないのですが、映像にかなり助けられていると思われ、ショットは良かったと思いました。ジャングルジムのシーンが先のメリーゴーランドの話とシンクロしていいなあと思った後に本当にメリーゴーランドまで出てきたので、本当のメリーゴーランドはなくても私は良かったかなと思いました。ドキュメントの部分と物語と音楽が最後でクロスするシーンはとても心地よく、そこまで来ると、前半のギリギリの作り込みも気にならなくなっていました。ちょっとラストが甘いかなとも思いましたが、見直すたびにいい意味で印象が変わる作品だと思います。ーーー菅原睦子(仙台短篇映画祭)
「一見平凡に見える人生にも、ドラマチックに音楽が鳴る瞬間があるのだ!」と深く感動させられた。
主人公と音楽の出会い方の運命感、ドキュメンタリーパートがドラマパートの音楽の強度を高めるという意味で、今回最も「MOOSIC」な作品だったと思います。愛すべきキャラクターたち、時に超映画的なシーンの数々にもカンパイ!ーーー松岡宏起(下北沢映画祭)
まさかこんな感動が待っていたなんて!!!今回唯一の涙部門一位です。ーーー木下茂樹(テレビ西日本)
この作品は監督に色々質問してみたい作品です。もしかしたら私の大きな見当違いかもしれないからです。芝居も映像も、若干嘘っぽいというか説得力が無いような、そんな感じが全般に漂ってますが、実は全てSACOYANというミュージシャンの音楽とドキュメンタリーを加味する為の、計算された脚本と演出ではないか?と自分なりに言い聞かせています。ーーー遠田孝一(プロデューサー)
「映画と音楽のコラボレーション」というよりも、「セルフ・ドキュメンタリー/ホーム・ムーヴィーとフィクション映画のコラボレーション」にこそ可能性を感じさせてくれた作品。いずれのパートにも魅力はあるが、SACOYANのモノローグによるセルフ・ドキュメンタリー/ホーム・ムーヴィーのパートに、フィクション映画のパートが(個々のキャラクターのチャーミングさは否定しがたいものの)、強度において拮抗できていないのが最大の弱点か。セルフ・ドキュメンタリー/ホーム・ムーヴィーのパートの圧倒的な生活感がフィクション映画のパートの生活感の希薄さを際立たせ、後者のロマンティック・コメディとしての魅力を削いでいると言い換えてもよい。その意味でおしい作品だが、新たな可能性を感じさせてくれた作品であるのは間違いないため、準グランプリとした。ーーー松本CINEMAセレクト
『マグネチック』の個性と中毒性、『夜、逃げる』の実力者たちの競演や作劇のクレヴァーさにも強く惹かれましたが、このCプロ2本は支持者が比較的多いと予想されるので、僕は個人賞のほうでなんとかフォローさせてもらいました。ーーー森直人(映画評論家)
SACOYAN好きからするとグッとこずにはいられないドキュメンタリーパート…かと思えば、フィクションパートの皆さんが愛しくて愛しくて…作り手と受け手それぞれの精神性が交わって、音楽だなあと。ーーー小田祐二(宇都宮ヒカリ座)
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★ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016 オフシアター・コンペティション部門 審査員特別賞/観客賞受賞作品
★MOOSIC LAB 2016 準グランプリ/ミュージシャン賞(the peggies)/女優賞(北澤ゆうほ)/男優賞(鈴木理学)
『脱脱脱脱17』
出演:鈴木理学、北澤ゆうほ(the peggies)、祷キララほか
監督・脚本・編集:松本花奈|音楽:the peggies|企画:直井卓俊|プロデューサー:上野遼平|撮影・グレーディング:林大智|照明:陸浦康公|録音:浅井隆|美術:藤本カルビ|108分
34歳の高校生ノブオと、嘘泣きが得意なリカコ。もがく彼らは果たして永遠の17歳を卒業する事が出来るのか?撮影当時高3の松本花奈がthe peggiesのロックナンバーに乗せて送る渾身の青春映画!既にゆうばり国際ファンタスティック映画祭で2冠を獲得した話題作!
◉松本花奈
1998年生まれの18歳。中学生の頃より映像制作を始める。監督作に、映画「脱脱脱脱17」(ゆうばり国際ファンタスティック映画祭審査員特別賞&観客賞受賞)・映画「真夏の夢」井上苑子MV「大切な君へ」(youtubeにて550万回再生突破)など。
◉the peggies
2011年よりライブ活動を開始。2012年、さいたまスーパーアリーナで行われたEMI ROCKSへ出演。3人が持つ個性豊かな音楽性と、フロントマン北澤ゆうほの卓越したソング&リリックライティング、伸びやかで親しみある歌声は中毒性抜群。
■審査員講評
34歳の高校生…彼の執着が何なのかを気にならせながら、最後まで見せ続けるのはさすがです。最後の監督が出てくるところに愛嬌を感じました。ーーー小田佑二(宇都宮ヒカリ座)
僕が特に、深く魅せられたのはずばり3本。この三強は自分の中で甲乙つけがたいので、グランプリ1本、準グランプリ2本という変則的な形を取らせていただきました。若き天才による『脱脱脱脱17』と『愛のマーチ』。松本花奈監督と伊藤祥監督は、表と裏、王道と異端のように真逆のベクトルを持つ才能ですが、共に寺山修司の匂いを感じたり。ただ両方とも成長の余地という意味で課題は残るはずなので、現時点の評価として「準」の位置に置かせてもらいました。あえて問題点として感じたことを記しておくと、MOOSIC LAB ver.として短縮版に仕上げた『脱脱脱脱17』は、編集で正解を出せているかどうか疑問。完全版を未見なので比較はできないのですが、因果関係の説明や伏線として導入される回想パートが、この尺だと停滞や失速を招いてしまう。意味的なつじつまが合わなくてもいいから、現在進行形の「ひと夏」だけをパッケージングしてしまう選択はなかったのかなと。ーーー森直人(映画評論家)
『光と禿』と同様に、物語のなかにしっかりと(リアルに、という意味ではないが)音楽が位置づけられ、物語において音楽が果たす役割が明確なため、「MOOSIC LAB」の作品としては低い評価をしづらい作品であり、「置きにいった」作品と言いたくなるまとまった作品。その意味で「MOOSIC LAB」らしく、既視感は否めないが、the peggiesの音楽の魅力、「女優」北澤ゆうほ(the peggies)の魅力は十分に引き出せているため、総合的にはグランプリ作品とした。ーーー松本CINEMAセレクト
まずは、プロレベルまでの仕上がりで驚きです。この作品の新鮮さは、松本花奈監督の年齢から醸し出されているかもしれないが、作品の力強さは松本監督のアイデンディティから生まれていると思う。そこが彼女の末恐ろしさである。あと、北澤ゆうほさんはこの作品には必要不可欠な存在でしたね。ーーー遠田孝一(プロデューサー)
まるで女優なミュージシャン発見しました。ーーー木下茂樹(テレビ西日本)
最も引き込まれた映画でした!奔放な女子高生のリカコを、ただ見守ることしかできないノブオ。同じく観ることしかできない観客の目線が一致した結果、完全に引き込まれました。リカコのキャラクター表現が的確だったことも大きな要因だと思います。そのほか、10代が撮る映画ということは抜きにして、予想を上回っていく展開や、効果的に挿入される音楽、絶妙なカメラワークに唸りながら拝見しました。あと、「泣くこと」に観客を参加させるストーリーにも上手さを感じました。ーーー高橋恵(下北沢映画祭)
最初19歳の監督が!ということで気になり取りあげた作品でしたが、観たら10代であることなんて考えることなく、やりたいこと、今やれることを全部やってやろうという監督の本気が溢れた作品でした。小さくまとめようなんてことはこれっぽちもなく、かなり無茶なことも試みていたと思います。故に妙に手慣れた感じもありました。それだけ沢山映画を観てもいる人なのだろうなあとも思いました。MOOSICLABの対する本気感から言えば群を抜いていると思えた作品でした。ーーー菅原睦子(仙台短篇映画祭)
正直言って、17歳の時観たら、絶対「脱脱脱脱17」は好きじゃなかったと思う。若さということを傘に着て、甘酸っぱい青春映画を撮って評価されているなんて(しかも可愛いし)解せなさ過ぎて地団駄踏んでいたと思う。しかし、現在、俺の中の青春性は枯れ果たオトナだぜ。最近、彼女も出来たしルサンチマンなんかに依存しません。そういうファッキンオトナな視点で観ると、今作はシン・ゴジラの牧教授みたく「松本花奈は好きにした、君らも好きにしろ」ってことだと思う。だって、出てくる大人たちみんな狂人にみえない?クソぶりっ子の教師、ヒステリックな母親、ストリップ小屋に出てくる妖怪みたいな女ども。本当に松本花奈のオトナ像は相当歪んでいるよ。ご都合主義的な部分も重なってこういう狂人描写がノイズになる所もあるけど、一方でそれが突き抜けて気持ち良さ、共感さえ覚えるところがある。自分たちを支配し、抑圧していた「オトナ」や「世間」に対する苛立ち&反骨精神をフラッシュバックさせてくれる。『脱脱脱脱17』の「脱」は「脱衣」「脱皮」「脱出」といろんな言葉を代入することが出来るけど、自分は「脱獄」という言葉をあてはめたい。嘘泣きメンヘラのリカコ、おっさん高校生のノブオは何かを探して求めて旅をしていたというより、自分の弱さが作り出した自意識の牢獄からなんとかして脱獄したいように見えた。むしろ、松本花奈自身が大人とのしがらみとか世間の評価という檻から脱獄したかったんじゃないか。ああ、これは松本花奈なりの精神的脱獄映画、松本花奈の網走番外地だ!!!ーーー大下直人(Kisssh-Kissssssh映画祭)
伸びしろは一番感じた作品です。北澤ゆうほさんの動かし方は、17歳当時の松本花奈の感受性だからこそできると思いました。だけど、「オッサン」をはじめ各キャラクターが弱かったです。ユーモアとせめぎ合わせるべき、非情さが物足りなかった。劇中の「一生懸命やってんだよ」という一言の説得力ってすごく重要なのですが、結局どれも動機付けが生優しい。ストリップ劇場が出てきて、でも若い登場人物たちはやっぱり脱げない。映画的に守られる。嘘泣きが得意なヒロインが、嘘泣きすらできない状況なのに。そこをどのように踏み込んで描くかに期待していましたが、驚きが満たされませんでした。物語の中でクローズアップされている人物だけが可哀想なのか。ストリップを見にきて、金を払って毎回野次を飛ばすお客はどうなのか。各キャラクターに説得力を持たせる背景の動機付けが薄く、スタイルだけになっていたのが、乗り切れなかったです。ーーー田辺ユウキ(ライター)
「できちゃってる」感がある。非常にクレバーで、熱意もあり、世界の細部にも目配せが行き渡っていて、「映画」というフォーマットを巧みに操っているように見える。が、果たしてそうか。問題はノブオさんである。ノブオさんが父親探しのリカコに引っ張られてストリップ小屋に収まったあたりからまったく存在が消えてしまった。で、思い出したように「こそか!」というところでイキナリ飛び出してしまう。あそこでノブオさんが場をさらってしまったために、リカコがここまで来たケジメがつけられずに終わってしまった(もしかしてそういう意図なのか?)。その後のキスはまったく無用だ。10代女子の融通無得感でリカコの言動がキャラクタライズされているのは、作り手にそういう人の実感が分かるからだろう。しかし、ノブオさんはそうはいかない。ノブオの過去エピソードはもっと早いタイミング(ストリップ小屋に落ち着く前かその直後)で出しておくべきだったと思う。それだと作り手としては手がなくなってしまうおそれがあるかもしれないが、むしろそこからノブオの本当の意味での物語を立ち上げるべきなのだ。リカコは結局、何を乗り越えてどこに向かうのだろう。それぞれ最低な両親とはついに向き合わず、ノブオに応援してもらってプールを泳いで縦断した。そこでファナティックにモリアガったふたりと一緒に観ているこちらもジーンとくればよいのだろうか。そうではないだろう。むしろ不安になる。そういった問い自体が「既存のレール」であって、お門違いな老婆心だというのならば、「映画」というフォーマットを意図したこの作品の佇まい自体が「嘘泣き」の類と言えまいか。リカコがギターを奏で歌う時、彼女は役を演じている北澤ゆうほという「ミュージシャン」の状態で映っているように見えてしまう。リカコは何者でもないただの17才なのではないか。そこをうやむやにしたままに「できちゃってる」感じに見えるのが、どうしても引っかかってしまうのだ。「関係」をストーリー展開のツールとして扱ってはいけない。「関係」そのもの、核たるものをえぐり出す執念を持ってほしい。ーーー田中誠一(立誠シネマ)
『脱脱脱脱17』は主演のthe peggiesのボーカルさんが、夢眠ねむ×篠崎愛的な魅力があり、演技も歌も良かったです。テーマ的に母親への不信と恐怖が強く、監督は元子役だそうですが、「子役」という「人間が一番素直でいていい年代に自由を奪われた存在」による人間不信故かなと、ポップな作風ながら根深いもの、闇を感じました。ーーー西島大介(DJまほうつかい)
18歳の女の子が撮ってるとは到底思えない作品‥!!!おっさん高校生や熟女のおっぱいを映像に出したいと思います?フツー?北澤ゆうほちゃん、目の離せないヒロインぶりでした。演技力が伴えば無敵でしたね!主題のわりにコメディ要素が多くてもったいなく感じました。ーーー黒澤佳朗(沖縄G-Shelter)
北澤ゆうほの魅力に尽きる。ややむっちりして眠そうな容貌が可愛すぎて悶絶。声もすてき、歌もすてき。でもちょっと映画として音楽の使い方が凡庸で、MOOSIC的には評価を上げきれなかった。ーーー林未来(元町映画館)
昨年のムーラボで上映した前作「真夏の夢」は、招待枠でなくコンペ枠だったらグランプリに推したいくらい好きだったのですが、今作については「MOOSIC LAB verって?」という事に引っかかりつつ鑑賞。いくつかの作劇上の「?」が、短縮版ゆえなのか、元々そういうものなのか…キスシーンの置き所とか、父親の再登場に向けた布石の有無?あたりで傾げた首が傾いたままで、やや印象が散漫に。ヒロインの母親像は、こういう人物像を可視化できる世代が遂に現れたー!?と感心しました。ーーー溝口徹(横川シネマ)
セーラー服のまま水に飛び込むというビジュアルだけで、胸がきゅうっとなり、たまらなく切ない気持ちになるのだ。いつの日からか、足を止めてしまったわたしたちへ、女子高生監督 松本花奈が「進め」というエールを送ってくれている。松本花奈監督にはこれからもどんどん成長していって、全力でエンターテインメント作品を撮って欲しい!ーーー山崎花奈美(MOOSIC LAB札幌編主宰)
十七歳の反抗。すべてを脱ぎ去り、少女は女になるのだ。しかしながら、音楽的な要素を濃くし、コンパクトになった本作。なんだか新鮮味はより薄れてしまったのが残念でもある。ーーー家田祐明(K’s cinema)